農業

遺伝子組み換え作物と農薬

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先日、このようなニュースを見つけました。

農薬の効かない雑草「スーパーウィード」、米国で大繁殖

要は除草剤が効かない雑草が増えてきたという話なのですが、なかなか複雑な問題ですね。

グリホサート系農薬って?

この記事で指している除草剤はグリホサート系農薬ですが、グリホサートというのは「グリシン」に「リン酸」を導入した融合体です。グリシンといえば最も簡単な形状のアミノ酸で、最近では睡眠の質を高めるサプリメントとして注目されています。

僕自身、寝る前にグリシンを飲んでいるんですが、そもそもグリシンはアミノ酸なので食物にも含まれていますし、グリシン自体が動物に害がある事はなさそうです。(もちろん摂取量にもよるでしょうが)

「リン酸」は動物の骨にも含まれていて、肥料などにも使われる物質です。と、いうことで「グリシン」と「リン酸」個々をみてみると劇薬と言った感じはしませんね…。ただし、グリホサート系農薬には「界面活性剤」が使用されています。ですので、飲用等をするとグリホサートと界面活性剤の相乗効果で、最小致死量は100ml、推定致死量は(2ml/kg)程度という報告も出されています。

とはいえ、これは農薬でこれはかなり安全な部類に入ると思われます。グリホサート系農薬の比重が分からないので、正確ではありませんが2mlを2gと仮定すると、食塩の致死量である(3~3.5g/kg)、塩化マグネシウム(にがりの主成分)などの致死量(2.8~4.7g/kg)に近く、カフェイン(0.2g/kg)の10倍、毒餃子事件で問題になったメタミドホス(0.01~0.02g/kg)の100倍以上の量で致死に相当するという事になります。(ちなみにメタミドホスは日本では使用が認められていません。)

もちろん、一口に毒性と言っても、一般性、急性、特殊性(発がん性)などと多岐に分類されるので致死量が多い=安全という訳ではありませんが…。(毒性について気になる方はぜひ毒性学について学ばれると良いと思います)

最も有名なグリホサート系農薬である「ラウンドアップ」は、WHO(世界保健機関)やEPA(米国環境保護庁)でも最も毒性の低い農薬に分類されています。

グリホサート系農薬はなぜ効くのか

そもそもグリホサート系農薬が植物を枯らす事が出来る理由は、植物の代謝経路の特定の部分をストップさせるからです。簡単に説明すると、植物は必要なアミノ酸を作るためにEPSPS酵素という酵素を利用します。ですがグリホサートはその酵素の働きを阻害して、アミノ酸が作れないようにします。その結果、植物は必要なアミノ酸が作れなくなり、枯死します。このEPSPS酵素は人間にはないので、人間の代謝を阻害する事はありません。

たとえば人間の場合、呼吸を行い酸素を体に取り入れなければ死に至ります。血液中にあるヘモグロビンが酸素を運び、体中に行き渡らせるのですが、ヘモグロビンが酸素を運ばなくなってしまう事があります。

最も有名な例は「一酸化炭素中毒」です。ヘモグロビンは酸素よりも一酸化炭素と結びつく力が強いので、密閉空間で物を燃焼させるなどして一酸化炭素が多い空間になると、人は一酸化炭素中毒になり、最悪の場合死に至ります。

これは人間が呼吸に利用するヘモグロビンの特性上のもので、植物の場合は呼吸にヘモグロビンを利用しないので一酸化炭素の量が多くても、酸素があれば呼吸を行う事が出来ます。そのように人間と植物の体の違いを利用して、人間にかかる負荷をできるだけ少なくしながら除草が出来るようにしたのがグリホサート系農薬なのです。

グリホサート系農薬は植物特有の代謝を利用して、植物を枯れさせるわけです。ですが、全ての植物が利用する代謝経路をストップさせるので、雑草であろうと農作物であろうと枯死させてしまいます。

グリホサート耐性植物

グリホサート系植物は人間への負荷が少なく、効果的に除草できます。ただし、農作物も枯れてしまうのは困りますね。そこで生まれたのがグリホサート耐性植物です。

グリホサートの影響を受けないタンパク質「CP4 EPSPS」を持っているアグロバクテリウム(土にいる細菌の一種)の遺伝子を組み込めば、植物はグリホサート系農薬の影響を受けずに生育する事が発見されました。

グリホサートを利用した農薬が最初に開発されたのは1970年、遺伝子組み換えによってグリホサート耐性植物が生まれたのが1996年、いずれもアメリカの大手バイオ化学メーカー「モンサント」の手によるものです。

これでグリホサート系農薬で除草をしながらも、遺伝子組み換え植物(耐グリホサート)を育てる事ができます。今回のニュースはそのような農産物生産を行っていたアメリカの農場でのニュースです。

 

グリホサート耐性雑草はいかにして生まれたか

問題は「グリホサートに耐性がある雑草」が生まれたという事です。ニュースでは、「除草剤として世界で最も普及しているグリホサート系の農薬が効かない雑草が、米国内の大豆や綿、トウモロコシ農場の大部分で繁殖」していると述べられています。

なぜ、植物全ての代謝活動を阻害するグリホサートが効かない雑草が生まれたのでしょうか?

実はグリホサート抵抗性植物は以前から確認されていました。生物の特性上、抵抗性雑草が出てくることは起こり得ること(突然変異など)で、たまたまその農薬が効かない遺伝子を持った株が生き残る事によって、その農薬が効かない遺伝子を持った株が子孫を増やし、徐々にその数を増やしていくのです。「人間が環境を作り生物をおかしな方向にまげている」とも言えるかもしれません。こと農薬の話なので、そのような反応する人は多いと思います。

ですが、このような例は他にもあります。たとえば多くの人が嫌いな「ゴキブリ」もそのように人間が作った環境で変化しています。

家庭でゴキブリ駆除をする際に使用されているポピュラーな物としてベイト剤が挙げられます。いわゆる「毒餌」ですね。現在市販されているベイト剤の多くは甘いらしく(残念ながら食べた事はありませんが)、最近のゴキブリは甘みを好まない個体が増えてきているという研究結果があります。これも人間が環境を変化させた例と言う事が出来ます。

 

結局問題はどこにあったのか?

結局、「農薬の効かない雑草」が増えたのは誰のせいでしょうか?正直に言えば、僕は農薬を適正に使用していなかったfarmer(今回の場合アメリカの農家なので誤解等が生まれないよう、アメリカの農家=farmerと記述します)に問題があるのではないかと思います。抵抗性生物というのは常に生まれる可能性があるものです。モンサント等の企業もその事を認識し、抵抗性植物が生まれにくいように使用方法を守るようアナウンスしていました。

ですが、土壌汚染が少なく、人間への毒性も低く、自分の農作物には影響が無く、効果が抜群の農薬の使い勝手を知ってしまえば、全てそれに頼り切ってしまいます。(アメリカの広大な農地で使用するにはもってこいですから)雑草が残っていたら「あれ、ちょっと量が少なかったかな?」と過剰使用をするfarmerだっているのではないかと思います。

ただし、僕はfarmerが有意に環境意識が低いという事を言いたい訳ではありません。例えば、抗生物質などの薬剤をダラダラと長い期間使うと薬剤耐性菌を生み出してしまう可能性が高まります。これは正しい知識のない一般の人にも起こりうる事ですが、一体何%の人がその事を意識しているでしょうか?

長文をだらだらと書いて月並みな意見で締めくくるのは心苦しいですが、やはり薬を使う側の知識を高めていく必要があるという事を感じます。農薬などを使用する際はやはり一定の知識レベルに達しているかどうか、免許や資格制度にする必要があるのではと思います。日本の場合、農薬管理指導士という制度もありますが免許という程の物でもないですし。

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