作品にみる田舎

つげ義春「二岐渓谷」に見る田舎

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理想の田舎とはどこなのか?

地方都市で暮らしていた僕は「田舎に行きたい」と思うことがよくあって、旅に出ては満たされない思いをすることが多かったのです。で、自分が田舎に住んでみて思うのは「あの頃、自分が求めていた田舎はいったいどんな場所」だったのだろうかということです。

都市に住んでいた僕にとって、田舎は小説やマンガ、映画、アニメなどの作品で描かれるファンタジーの中のものとして接する機会が多かったので、そういう作品の中に出てくる幻想のような田舎を求めてしまうのかなと思ったわけです。

で、自分が好きな理想のような田舎って何だろうという事を考えるとともに、色々な作品で「田舎」はどのように描かれているかを調べてみたいと思い立ちました。色々な作品をやっていきたいと思っているのですが、今回はつげ義春先生(以下、敬称略)の「二岐渓谷」の田舎を見ていきたいと思います。

二岐渓谷の生まれた経緯

「二岐渓谷(ふたまたけいこく)」は1968年につげ義春が発表した漫画作品です。二峡渓谷は福島県にある温泉地なのですがつげ義春は1967年に東北を旅行した際にここを訪れたようです。

「二岐渓谷」を書いた頃、つげ義春は井伏鱒二の小説を愛読していたようで、「ぼくは井伏鱒二の小説が好きで、旅をすればその小説のような出来事に出会えるものと思っていた。(中略)けれど、実際に旅に出てみると、どうゆうものか何事も起きないのだ。」とあとがきに書いています。

井伏鱒二は実際非常に行ってみたくなるような旅の話を多く小説やエッセイに書いていたのですが、つげ義春はその幻想のような田舎を求めていたのだと思われます。

二岐渓谷のあらすじ

さて、「二岐渓谷」についてですがあらすじをざっと説明すると、主人公は東北を旅している最中に二岐渓谷に立ち寄ります。

つげ義春「二岐渓谷」のSL

(移動手段がSLというのも昔っぽくて味わいがありますね。調べてみるとこの作品が書かれていた当時はSLがバリバリ現役だった様です。いいなぁ…あ、よく考えると阿東にもSLあるから全然いいや。SLの旅っていいですよね。)

二岐渓谷は非常にひなびた湯治場として描かれています。この「ひなびた」っていうのは非常に心くすぐられるキーワードですね。

つげ義春「二岐渓谷」の田舎

つげ義春「二岐渓谷」の主人公

そして、主人公は食料品店の店主にむかっておもむろに「このあたりで一番貧しそうな宿はどこですかね」とたずねます。これは凄く大事なところだと個人的に思っています。(普通の宿じゃ物足りないんだよ…)という事だと思うのですが、実際似たり寄ったりのサービスが一番つまらないと僕は思うんですよね。

この後、教えてもらった宿を見るなり主人公は「なるほど貧しそうだな ぼくの好みにぴったりだ」とつぶやきます。決して悪い意味で言っているわけではなく、侘び寂びというか風流というか、「もののあわれ」を感じる旅がしたいのでしょう。茶人のような主人公です。

しかし、食事は大事にしているようで宿の前にあったナメコを見るなりよだれをたらしながら「するとこれはイヤというほど食べられるのですね」とたずね、他のメニューの提案をされた後、「二食で六百円」と言われると勢いよく「泊めて下さい」と手を挙げます。

つげ義春「二岐渓谷」の老婦

モミジの精進揚げという食べ物がどのような物か分からずWEBで検索したところ紅葉を天ぷらにしたものが出てきました。こんな料理があったのですね…ううむ、知らなかった。しかし、ワラビの漬け物といい、マタタビの甘露煮といい、美味しそうです。

そんなこんなでその宿に泊まって温泉に入り、人だと思って話しかけるとサルだったというハプニングが。ちなみに猿は山奥の田舎ならどこにでもいるので、これは凄くあり得る話だと思います。ちなみにこの猿は手の怪我を治療するために温泉に入ってるという事がのちに判明。

つげ義春「二岐渓谷」の温泉

宿に帰ってその事を主人に報告すると、主人もついこの間温泉でサルに出会ったという事を聞かされる主人公。宿の主人とこたつでサルの話を繰り広げるのですが、旅館とかに泊まるとなかなかこういう経験はできないですね。民宿の醍醐味です。

つげ義春「二岐渓谷」の宿の主人

その夜、渓谷を台風が襲い、風雨が吹き荒れます。犬がやたらに吠えるので宿の主人と主人公が外に出てみると雨で増水した川に流れ着いた流木の上に、あの怪我をしたサルが。怪我をしたので敏捷性に欠け、逃げ後れたのです。逃げる事が可能かと主人公が問うと、「まず絶望でしょう」と自然の厳しさを身をもって知っている主人は答えます。

つげ義春「二岐渓谷」の猿
主人公は宿に戻り、布団の中でサルの泣き声を聞こうとするも風雨の音でかき消されてしまって聞こえません。翌朝、台風の残した爪痕を目の当たりにしながら主人公は山を下りていく…というのが主なあらすじです。

侘び寂びはとても大事

この作品は優れた紀行漫画だと思いますが、読んでいる時に感じる雰囲気が好きです。飾らない、侘び寂びを楽しむ心が主人公にはあります。「寂しさに 宿を立ち出でて 眺むれば いづこも同じ 秋の夕暮れ」と詠んだのは良暹法師ですが、そのような寂しさが伝わってくるような漫画になっています。

これで思うのは、田舎にとって侘び寂びはとても大事なのかなということです。今は田舎であれ、都会と同じような生活になっている面もありますが、あえてそういったものを切り捨てて侘び寂びに特化することで行きたくなるような田舎が作れるかもしれませんね。

※記事中の漫画は全て「紅い花 異色傑作選2(つげ義春)小学館文庫」に収録されている「二岐渓谷」より引用させて頂きました。

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